読む信心-プラスアルファの間柄

 私が在籍する教会の裏庭には、新海三平さん(55)が8年前に苗を植え、今も丹精込めて世話をしている「つるバラ」があります。【金光新聞】



 そのつるバラ、一つの株から数本の太い茎が生え、その茎から噴水のように四方につるが伸びて、教会の敷地を囲うフェンスに巻き付きながら、今では幅20メートルほどになっています。

 毎年、教会の春の大祭の時期になると、フェンスの内側はもちろん、外側を流れる小川の川面に向かって、こぼれるように八重咲きの濃いピンク色の花を、次々と咲かせるのです。

 三平さんは、小さいころから父親に連れられて、教会に参拝していました。教会の子ども会にも参加するようになり、会活動で育てられていく中で、先代教会長をもう一人の父親と慕うほどになりました。

 学業を終えると、自動車会社の整備士として働き始め、その誠実な仕事ぶりで顧客の信頼を得ていきました。やがて、整備から営業部門に配属されましたが、教会でお取次を頂きながら、新しい部署でも着実に成績を伸ばしていきました。

 温和で職場での人望も厚かった三平さんは、その実績が評価されて、四十代に入って間もなく支店長に昇進しました。こうして順調に階段を登っていた三平さんでしたが、その一方で、営業という職種に課せられるノルマに管理職としての重責も加わって、次第にストレスを感じるようになっていったのです。

 ちょうどそのころ、三平さんは庭付きの一戸建て住宅を購入し、その庭で植物を育てるようになりました。土に触れ、季節の移ろいを肌で感じながら、草花の生長を見守っていく中で、仕事で疲弊した心身が元気になっていくのを感じるようになりました。

 三平さんは、草花と触れ合うことで心が元気を取り戻していった体験から、「教会に足を運ぶ人たちの心が和むよう、境内のどこかで草花を育てたい」と思い立ち、教会につるバラを植え始めたのです。

 植苗した場所は、古い倉庫の裏手に当たる、どちらかといえば目立たない場所でした。その後、倉庫が取り壊されることになり、今では通りから教会建物を背景につるバラが咲き乱れる風景が、町の景観ベスト10に選ばれるほどになりました。

 三平さんは言います。「自動車などの機械は、例えるなら1+1=2のように、何より正確性が求められますが、植物を通して自然と触れ合っていると、そこにプラスアルファが生まれることに気が付きました。心を込めて手入れをすると、それ以上のものが返ってくるんです。庭の草花とは、そんな間柄なんですよ」

 三平さんから教会の子どもたちに手紙が届きました。それは、カミキリムシの捜索を依頼する手紙です。

 〈指名手配 カミキリムシ 本来、神様が創(つく)られた世界には害虫はいません。人間にとって都合の悪い虫を害虫と呼んで駆除するという行為は考えさせられることです。しかし、バラが枯れる原因の90パーセントはカミキリムシの幼虫でもあるのです。だから、見逃せません〉

 そこには、三平さんのバラへの思い入れと、カミキリムシを駆除することへの神様へのお断りが感じられます。

 今年も、三平さんが育てたつるバラが、参拝された皆さんを迎えてくれました。

※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています。


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読む信心-Update:2008/11/22

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