●こころの散歩道
 「捉え方の達人」


金光教放送センター



 先日、家族でドライブをしていると、早く行けと言わんばかりに、後ろにビタッとくっついて走る車がありました。私の速度メーターを見ると法定速度。「何でルールを守っている方が嫌な思いにならなあかんねん」と内心イライラしながら運転していると、追い打ちを掛けるようにその車は、見通しの良い道路に差し掛かった時、私をにらみつけ、クラクションを鳴らしながら猛スピードで抜き去っていきました。「警察に捕まったらいいのに!」。腹が立ってハンドルをたたきました。でもその時、7歳の息子が、「お父さん! もしかしたら、あの車は、もうすぐ赤ちゃんが生まれるかもしれないから急いでるのかもよ?」と言ったのです。
 私はその言葉を聞いて、「そんな捉え方があるのか」とハッとさせられました。どんなことがあってもあおり運転はいけませんが、息子の言葉のおかげで私のイライラは取り払われたのです。

 生きているといろんなことに出合います。楽しくうれしいこともありますが、時にはつらいこと苦しいことも起きてきます。同じことが目の前で起こっても感じ方は様々で、どこまでも悪く捉える人もいますが、反対に、どこまでも良く捉えることができる「達人」っていますよね。

 私の家の近所に、60代の勝(まさる)さんという方がいます。勝さんはいつも明るく、話をすると、こちらが元気をもらえます。
 ある日、その勝さんと道でばったり出会いました。勝さんは私に、「ちょっと聞いて」と興奮しながら話し掛けてきました。
 「さっき警察から電話があってな、『お宅に聡(さとる)さんという息子さんおられますか?』って聞くんや。『はい。いますが』って答えたら、神妙な声で『実は、その息子さんが…』って言うねん」
 私もその息子さんとは友達だったので、ドキドキしながら、「息子さん、何かあったんですか?」と尋ねると、勝さんは、「そうやろ。何かあったと思うやろ。それで心配して聞いたら警察が、『財布を落とされたみたいで、今、警察署で預かっているから、取りに来るように言っておいてください』やって。ビックリさせるよな。『お宅の息子さんが財布を落とされて』って先に言えばいいのに。何かあったんちゃうかってドキドキしたわ」。こんなふうに怒り気味に話すのです。
 しかし、続けて、「でもな、警察の話し方のせいで、もしかして事故したんちゃうかって思って本当に焦ったんやけど、そのおかげで、息子が事故に遭った時の悲惨な感情になれたんよ。それで息子が元気でおってくれるのって当たり前じゃないんやな、ありがたいんやなっていうことに気付けてん」
 勝さんは、幸せそうにそう話してくれました。

 よし子さんという私の尊敬する方がいます。お年は95歳で、どんなことがあっても、「ありがたい、ありがたい」と言っていつもニコニコされています。ある時、ご先祖様の供養をしている最中、子どもが廊下を走り回って遊んでいました。親は、「静かにしなさい」と怒るのですが、よし子さんは、「子どもの足音は何よりのご先祖様へのお供えですね。子どものトントントントンという足音は大人では出せませんからね」。こう言ったのです。この時、子どもはもちろん、親の心も救われました。
 そのよし子さんが93歳の時、大腿骨を骨折し、手術をしました。手術前はお医者さんから車いす生活になるかもしれないと言われていました。手術後、いつも笑顔のよし子さんが人前で顔をゆがめるくらい大変なリハビリを一生懸命頑張って、今では杖をついて歩けるまでになりました。そんな大変な思いをしたよし子さんなのですが、手術が終わってすぐのことでした。よし子さんは、自分の足をさすりながら、私に、
 「93年間も使ってきた足なんだもの。よくお礼しなさいよって、神様が私に言ってくれてると思うんですよ。リハビリは痛いしつらいこともあるけれど、少しはこの痛みがないと、体に感謝することを忘れてしまいますもんね。だから、痛みがあるごとに、『今日までありがとう。でも、もう少しよろしくね』と足をポンポンとたたいて感謝をしているんです」。こう話してくれました。
 そして今では、「よし子さん、足はどうですか?」と尋ねると、「ちょっと痛いけど、右足を出して左足を交互に出せば、なぜか歩けますねん」と笑いながら話しておられます。そして、よし子さんの後ろを歩くと、「ありがとうございます。」ありがとうございます。と一歩一歩感謝の声が聞こえてきます。

 生きていると、自分の思いどおりになることもあれば、思いどおりにならないこともたくさんあります。そんな時、不足に思ったり落ち込んでしまいがちなのですが、勝さんやよし子さんを見ていると、思いどおりにならない中にも、ありがたいことは隠されているのだと思わせられます。物事の捉え方って大切ですね。
 今日、今から起きてくること、皆さんはどんなふうに捉えますか?

 


 

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