●「天ぷら屋 大繁盛の理由」

金光教大阪教会
白神紀美雄



 私の奉仕する教会にお参りになる方で、60年以上続く天ぷら屋さんの店主がおられます。お名前は、四宮明(しのみやあきら)さん。お店の屋号は「武蔵」。四宮さんは今年で80歳になります。 ある日のことです。見たことのない2人が、じーっと四宮さんのお店を眺めていました。四宮さんは不思議に思い、「何しましょー」と声を掛けましたが、2人は、「いや、結構です」と言って買おうとはしません。四宮さんは、「変な人たちやなー」と思いながらも、気にせずにそのまま仕事を続けました。そうこうしていると、2人は近付いてきて、「おっちゃん、味見してもええかな」と言いました。四宮さんは快く、「かまへんよ」と答え、名物の串カツを差し出しました。2人は、「うん、おいしいなあ」と顔を見合わせ、「おっちゃん、お店は何時からやってるの?」、「年はいくつ?」などといろいろと質問をしてきました。四宮さんは、「何やこの人ら」と思いながらも質問に答えていると、最後に2人は名刺を差し出しました。その名刺にはテレビ局の名前が記されており、2人はある番組のディレクターだったのです。2人は、「おっちゃんの店なら大丈夫や。また改めて取材に来るから、そん時はヨロシク」と言って帰っていきました。
 2人が帰った後にようやく状況を把握した四宮さんは、「えらいこっちゃ。うちみたいな小さい店より、商店街の中にはもっと大きくて立派な店がなんぼでもあるのに…」と思い、商店街の会長さんの所へ走って行きました。早速に事の次第を説明すると、「四宮はん、良かったやないか」と会長さんは大変喜ばれ、「商店街あげて応援するで」と逆に激励されたのでした。
 それから数日後、再びテレビ局の人が来店し、「撮影する日が決まりました。まず、お昼に料理の撮影をし、夕方からは芸能人が3人来て、試食の撮影を行います」と言い、打ち合わせは終わりました。
 いよいよ本番の日を迎えました。当日は、商店街の人も店を手伝ってくださり、店の前は早くからうわさを聞き付けた人々でいっぱいでした。いよいよ撮影のスタートです。大勢の人が見守る中、四宮さんは次々に天ぷらを揚げ、陳列棚はいろいろな天ぷらでいっぱいです。お昼の撮影が終わり、夕方が近付くにつれ、ますます見物客が増えてきました。「よーい、スタート」の合図とともに夕方の撮影が始まると、テレビでは何度も見たことのある3人の芸能人が武蔵にやって来ました。3人は天ぷらを試食しながら、「おいしー」を連発し大絶賛です。撮影は無事に終わり、お店の正面には番組のステッカーが誇らしげに貼られました。1週間後にテレビで放映され、その翌日からは連日大盛況! 他府県からもお客さんが次々に来て、まさに飛ぶように天ぷらが売れました。では、
 なぜ四宮さんのお店が選ばれたのでしょう。
 四宮さんは昭和23年に、徳島県から実の父親の弟であり、「武蔵」の創業者でもある叔父さんの元へ養子に入りました。義理のお父さんは商売に対して厳しく、また、熱心な金光教信者でもあり、若き日の四宮さんは商売の心得はもちろんのこと、生活全般にわたって厳しい指導を日々受けました。その1つの証拠があります。
 テレビ放映の打ち合わせの際、ディレクターから、「私たちはいろいろなお店に取材に行きますが、個人経営で、さらに油関係で、こんなに奇麗な厨房(ちゅうぼう)は見たことがありません」と言われたことです。決して広くはないお店で、日々朝から晩まで200度を超す油で天ぷらを揚げ続けると、店の中は油だらけになります。しかし、四宮さんは油まみれになった冷蔵庫や、天ぷら屋にとっては命ともいえるフライヤーやその周辺を、毎日顔が映るようになるまでピカピカに磨きます。
 そこには四宮さんが日々「祈り」や「感謝」を大切にしている気持ちが表れています。
 毎朝の出勤時には、まず神様にお祈りをします。その次に冷蔵庫とフライヤーに対し、「いつもありがとうございます。今日もよろしくお願いします」と心を込めて祈り、来てくださるお客様に対しても、「神様が連れて来てくださったお客様」と思って一人ひとり心を込めて応対します。そして閉店の時には同じように感謝の祈りをされるのです。さらに、お店の近所に住む四宮さんは、寝る前にも再びお店に行き、「火事が出ませんように…」と祈ることが日課となっています。「これをしなかったら気持ちが悪うて寝られしまへんねん」と照れくさそうに言われます。
 天ぷら屋「武蔵」を営んで今年で61年。「今までで一番うれしかったことは何ですか?」と尋ねると、「そうやねえ」と考えながら、2つのことを言われました。
 「1つはテレビ番組に出たことやね。今までの苦労や辛抱を神様が褒めてくださったように思います」。
 「そしてもう1つは、80歳の誕生日にお客さんが花の鉢植えをプレゼントしてくれたことやね。何で僕の誕生日を覚えてくれとったかは分からんけれども、商売のご縁を通しての人の真心がすごくうれしくありがたかった」と教えてくれました。
 お客様とのご縁や調理器具を大切にする四宮さんの心にこそ、天ぷら屋「武蔵」大繁盛の理由(わけ)があるのでしょう。

 


 

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