●信心ライブ「大雨の日の特急列車」


金光教放送センター



 (ナレ)おはようございます。今日は、福岡県苅田(かんだ)教会の教師、深見コ久(ふかみのりひさ)さんが、平成30年10月、小倉(こくら)教会でお話しされたものをお聞きいただきます。
 深見さんは、平成30年7月、西日本豪雨が起こったその日、長崎での用事を終え、特急列車で福岡へ帰るところでした。
 
 

 何か土産を買わんと、長崎まで行って手ぶらで帰るんもいかんということでね、私の母親の好物のカステラがあった。よし、これを買うて帰ろう。喜ぶじゃろうと。これ1本だけやったらいけん。うちの家内にも買わないけんな。そしたら2本買おう。2つ買って特急に乗ったんです。さあ、そこからとんでもないことが起こるんですよ。
 ものの10分あまり走ったでしょうか。列車が緊急停車するんですよ。そうしたら車内放送がありました。「ただいま、大雨が降っており、列車が止まっております。ここでしばらくの間、待機させてもらいます」というんです。
 「まあこれも仕方ないな。今日中に帰ればいいや」と思うて、気が付いたら1時過ぎ。お腹空きますわ、そりゃ。9時台の列車に乗っとるから、お昼の用意なんか私は当然してないし、周りもしてません。困ったな、どうしようかな。パッとバッグを見たら、「お、カステラがある。悪い、1本だけ開けさせてくれ」と思うて1本出しました。それでパッと見たんです。ここの通路の横に若いカップルがおるんです。後から分かったのですが、これは新婚旅行なんです。この2人がおったんで、当然「ああ、この人らも皆お腹空いとるだろう」と、そのカステラを、私は手を付けずに、「おたくらお腹空いたでしょう。どうぞ食べてください」と言いました。それで後ろを振り返ってみると、何人もおるわけです。「そしたらまあ皆さん、どうぞ取ってください」、「ありがとうございま
す」と皆さん取っていくわけですよ。「もうええ。もう1個出そう。ああ、お土産がのうなったなあ。まあしかしカステラはいつでも買えりゃあ」ということで2つめを開けました。「皆さん、どうぞ食べてください」と。みんな「ありがとう、ありがとう」と。みんなお腹空いとるんです、そりゃ。皆さんそれを食べましてね、喜んでくださった。
 そしたら私の横に、1人の男性が来まして、「すいません、おたくは宗教関係の方ですか」と言うんですよ。「はあ」と言うたら「私は浄土真宗の坊主です」と。「さっきからおたくが、何か手を合わせて祈っとるようなとこを見掛けたんで、何をされとんか思うて」と言う。「実はこうこうこうで、みんながやっぱりこうね、けがもなく無事に目的地に着かないけないからということを祈らせてもらっとったんです」。「はあ、どういう方ですか」と言うから、「こうこうこうじゃ」と言うたら、「金光教の方はそういうことをお願いするんだなあ」と言われる。
 そこで話をしとったら、この隣に座っとる若いカップルが立ち上がるんですよ。「皆さん、この駅の近くにコンビニがあります。私らが今から買い出しに行きます。皆さん欲しい物があったら言うてください」と言うんですよ。「はあー」と思うた。私が考えも付かんことを言う。ほんと強う降っとるんです。ザーザー降っとる。それで2人が帰ってきた。もうずぶ濡れです。
 私はその時、ほんとに神様と思うたです、この2人を。それで皆に配るんですよ、それぞれ。そしたら2人は着替えてきて横に座るから、「皆さん、後ろにおられる方も前に来てください。一緒に話しながら頂きましょうや」と言うたらね、皆さん、前の方に来るんですよ。それでみんなで話をしながら、そのおにぎりとかパンとかを頂いたんです。
 そして、またしばらくして、もう何か薄暗くなりかけた頃、また2人が立ち上がるんですよ。「もう1回買い出しに行きます」と言う。「何か要る物があったら言うてください」と言う。「うわあ」とまた頭下がる思いでした。2人はまた買い出し行くんです。帰ってきました。好きなだけ取ってください。そしたらね、肩を叩く、その兄ちゃんが。「おじさん、ビール飲むでしょ」と言うて。「大好き」。「買うてきました」。何とうれしゅうてうれしゅうて。こんな所でね、生まれて初めてその炊き出しみたいなことを経験したし、そんな何時間も閉じ込められる経験した。みんなでワイワイ言いながら頂いたんですよ。そしたらね、他の乗客も、「皆さん、あめ玉でよかったらあります」と言うておばあちゃんが出したりね。もう私、うれしゅうなってね。こんな所におってありが
たいなと。
 それを頂いておると今度は、おにぎりの差し入れが地元の方からありました。これはありがたかった。もうほんと、お腹空いとったんですけどね、温かいおにぎりなんです。「もうおにぎりいっぱい作っとるからいくらでも取ってください」。ほんとに生まれて初めての経験です。テレビなんかでよく炊き出しとか見ますけどね。私はそこにおってね、ほんと手を合わせたんです、ありがとうて。
 みんなの祈りと人を助けるというこの2つから、神様が生まれてきたんだなあ。ほんと思わせていただきました。教祖様はね、「自分のことは次にして人の助かることを先にお願いせよ。そうすると自分のことは神が良いようにしてくださる」。このように教えてくださっていますね。ほんとにそういうふうに私、思わせていただきました。



 (ナレ)いかがでしたか。突然の思い掛けない出来事に、イライラしたり不安や心配にとらわれたりしてしまいますが、皆の無事を神様に祈り、何か人のためにできることはないかと願っていく中で、互いに助け合う心が生まれ、温かい場となっていく。日々、様々なことが起こってくる中で、いつでもこのような祈り合い、助け合う心を大切にしたいと思います。

 


 

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