●心の掃除

金光教本部
金光浩道


 長女が2歳半の時の話をさせていただきます。家族で地元のイベントに参加して、午後8時すぎに帰宅しました。普段よりは遅い時間になりましたが、いつも通りバタバタと子どもたちの歯を磨くなど、寝かし付ける準備をしていた時のことです。
 子ども部屋から、ゴンという鈍い大きな音がしたかと思うと同時に泣き声が聞こえてきました。音を聞いて嫌な音だと直感し、急いで、「どうした?」と子ども部屋に入ると、2歳半の長女が、転んでベッドに顔を打ち付けた様子で、唇から血が流れ落ちておりました。妻が言うには、パックリと深く切れているとのこと。口のけがは治りやすいともいわれますが、かなりの出血で止まりません。時計を見ると、もう9時になろうとしています。どうしたものかと妻と話し合いましたが、やはりここまでパックリ割れていたら、病院で診てもらわないといけないだろうということになり、早速、町内の病院に電話を掛けました。すると、「今夜の当直の先生は内科の先生で、外科的な処置はうちではできません」との答えが返ってきました。しようがないので、もう1軒思い当たる町内の病院に電話しました。すると、そこの病院からも同じく、「今夜の当直の先生は内科の先生です。傷跡が残るといけないので、専門の外科の先生に見てもらった方がいいと思いますよ」と言われ、隣の市の大病院を2軒勧めてくださいました。
 その隣の市の大病院までは車で大体30分ほど掛かります。さてどうしたものかと考えながら、もう1軒病院を思い出し、電話してみましたが、やはり同じく当直医は内科の先生でした。「この大変な時に、この辺りの病院3軒とも外科の先生はいないのか。こんな時に限って…」と思わず愚痴が出ていました。
 その時ふと、整形外科をしていた幼なじみのことを思い出し、彼に電話で相談しました。すると、取りあえず傷口を見たいので写真を送ってほしいとのことで、早速、携帯電話で写真を撮って送ったところ、彼は、「う〜ん、パックリいってるけど、ばんそうこうで止めて様子を見るかもしれないなあ。でも跡が残るといけないし、形成外科の先生がいたらきれいに治してくれるだろうけど、この夜の時間に形成外科の先生はまずいないだろうしなあ」ということでした。
 妻とも話し合い、「まあ、お医者さんに診てもらうのにこしたことはないだろう」ということになり、パジャマのままの長女を車に乗せて、車で30分かかる隣の市の大きな病院の救急外来、夜間受付へ行かせてもらいました。外科は1時間待ちとなっていましたが、実際には30分ほどで名前を呼ばれ、診ていただけました。
 外科の先生は、周りの何人かの先生たちと、いろいろ、「ああしよう、こうしようか」などと相談されており、「唇を縫うにしても、もし唇の端っこのラインがずれたりしたら大変なんです」などと説明してくださいました。その直後です。先生が、「ちょうどこの後10時に形成外科の先生が来られますよ」と仰ったのです。時計を見ると、まもなく10時です。「え、形成外科の先生に診てもらえるなんて! 何てありがたいことだろう」と感激しました。そうして、傷をきれいに治してくださるスペシャリストの先生に、すぐに手当てをしていただくことができました。
 普通に傷を縫う場合よりも細い糸を使うようで、さすがに慣れた手付きです。素晴らしいスピードで、唇を3針、そしてぶつけた時に歯が当たって切れた口の中を2針、縫ってくださいました。夜遅い時間に、しかも、まさかこんなにすぐに形成外科の先生に出会うことができて、治療をしていただけるとは思ってもみなかったので、心からありがたい気持ちになりました。
 しばらくしてこの夜のことを思い返してみました。長女がけがをした当初、近くの病院に電話を掛けまくっていた時は、「この辺の病院は、何でけがを診てくれる先生がいないんだ。こんな大変な時に…」とイライラしていた自分がいました。近くの病院に内科の先生しかいなかったこと、それが実は大きなおかげであり、それがあったからこそ、後に形成外科の先生に出会えたわけです。
 しかし、その時は目の前のことしか見えておらず、浅はかな人間考えでイライラしていた自分を思い出すと恥ずかしくなりました。自分の欲だけで我を通して愚痴を言っていた自分は、まだまだ未熟だなあと反省させられました。
 このような時に思い出す金光教の教祖の教えがあります。
「座敷、押し入れ、板の間にちりが積もるように、人間は我欲のためにわが心にちりが積もる。わが心わが身が汚れないように、心と体の掃除をするつもりで、今月今日で信心をせよ」という教えです。イライラしたり愚痴を言ったりすると、心にチリが積もっていきます。神様は、どんな時にも、その場その場で最高最善のおかげを下さるのです。心にチリをためないように、常に素直な気持ち、みずみずしい気持ちを維持したいと改めて思わされました

 


 

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