●こころの散歩道
 「助けられたり助けたり」


金光教放送センター



 日本人が訪れる人気の海外旅行先、ハワイ。約20年前、私たち夫婦も新婚旅行で訪れて、魅力にハマってしまった2人です。ハワイ旅行が仕事の励みにもなっています。
 新婚旅行から数年後に、ハワイを訪れた時のことです。現地での移動は、観光客向けのバスではなく、地元の人が利用するバスに乗ることにしました。ガイドブックを買って、路線やバス停の場所、何番のバスに乗れば目的地に行けるかなど、下調べをしていました。
 到着して3日目の午後、大型スーパーへ買い物に出掛けました。日本に持って帰るお土産も買う予定です。
 目的のスーパーに到着。チョコレートやクッキーなどの色とりどりのパッケージに目がくらみ、あれもこれもと2人で競争するかのように、次々と買い物カートに入れていきます。冷静になったのはレジで支払いを済ませた時でした。
 「こんなに持てる?」
 「持って帰らないと…」
 「だれ? こんなに買ったの…」
 「自分だろ!」 
 お互いがお互いのせいにしながら心を静め、それぞれ両手に大きな袋を提げて店を出て、無言でバスを待ちました。
 「あっ! 来た!」
 先に乗るように促された私は、一段二段とステップを上がりながらバスの中を見ました。高校生ぐらいの男の子たちと目が合いました。私たちが尋常でない大きな荷物を持っていることに気付いたその3人組の青年たちは、ハッとした表情で、誰からともなく座っていた席から立ち上がり、私たちに席を譲ってくれました。「えっ!?」と思わず声が出ました。席を譲ることはあっても、譲られたのは初めてのことでした。夫と顔を見合わせながら席に座りました。とても楽でした。精一杯のありがとうの思いを込め、自分なりのとびきりの笑顔を向けて、「サンキュー」と言いました。青年たちの照れくさそうにはにかんだ笑顔が、今も心に残っています。

 車で仕事に出掛けるある朝のことでした。
 遠足に向かうのか、信号のない横断歩道で10人ほどの幼稚園児たちが、一列になって手を挙げている姿が目に入りました。対向車と私の車と、ほぼ同時に停止しました。先頭を歩く先生について、子どもたちは元気に渡り始めました。後ろを歩く先生が、何度も何度も対向車と私へ交互にお辞儀をしながら渡っていきました。先生と子どもたちのニコニコした笑顔を見て、うれしい気持ちになりました。
 しばらく行くと、左側のコンビニから道に出ようとする車に気付き、気を良くしていた私は、手前で停まって、その車に入ってもらいました。
 その日の夕方、今度は仕事から帰る途中にこんなことがありました。ガソリンスタンドから道に出る時、いつもなら車が途切れるのをしばらく待つのに、この時は停まってくれる車があって、待たずにスッと道に出ることができました。
 「朝、譲ったから、今度は譲ってもらえたのかな?」
 夜、この日の出来事を夫に話しました。「そんなのたまたまだよ」と、相手にされないかと思いましたが、意外にも「そりゃそうさ!」と、きっぱりと真剣な答えが返ってきました。同じような経験を夫も数多くしているのだと想像しました。夫は続けて言いました。
 「してあげたことは自分に返ってくる。でも、こうしてあげたら、こうしてもらえるかなと期待したり、してもらいたいから、してあげる、ということではダメ。良いことも、また悪いことも返ってくる。相手のことを思って真心でしたことは、必ず返ってくる」
 力強く語る夫の言葉に、この日のうれしい気持ちがさらにさらに大きく膨らみました。

 平成7年の阪神淡路大震災で、仕事場と住居を兼ねた建物の一部が倒壊しました。全国からたくさんの支援が届きました。物質的に助かったことはもちろんでしたが、次々に届く救援物資に多くの方々の祈りを感じて、心が温かくなり、よりうれしさが増し、心の助かりを得ることができました。
 そんな中、父とテレビを見ている時のことです。神戸に来てボランティア活動に励む大学生に、インタビューをしている様子が映りました。「どんな思いで活動していますか?」と問われ、問われた大学生は「お互い様ですから」と答えました。一緒に見ていた父は、「お互い様」という大学生の彼の思いに心を打たれ、「お互い様とはなー、うれしいなー、ありがたいなー」と言いながら、目を潤ませていました。
 20年後に行われた復興記念集会のテーマに、「助け合って生きるのが人間」という言葉がありました。父が心を打たれた「お互い様」という言葉を重ねながら、震災の時に、たくさんの方々に支援していただき助けていただいたことの、うれしくありがたかった当時の喜びが思い起こされました。何年経っても忘れることはありません。

 人を思う温かい心、人と人とが助け合う尊い働きは、譲ったり譲られたり、してあげたりしてもらったり、日常のささいな助け合いから、喜びと共に大きく大きく広がっていくように思います。


 


 

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