●「コミュニケーションが苦手だった私が…」

金光教放送センター



千葉県の金光教松戸(まつど)教会にお参りする小口祐弘(こぐちよしひろ)さんは、平成生まれの23歳。家族は祖父、父、母、姉、妹の6人家族です。現在、社会人1年生で、作業療法士として病院で働いています。
 患者さんに優しく声を掛ける小口さんですが、子どもの頃は、人とコミュニケーションを取ることがとても苦手でした。
 しかし小口さんは、神様から差し向けられた人たちとの出会いをきっかけに変わっていきます。
 幼い頃から、同年代の友達と遊ぶことより、保育園の先生や大人たちとばかり遊んでいました。小学校に入ってもそれは変わらず、1、2年生の頃は、気に入らないことがあると、授業中でも教室を抜け出すことが何度もありました。いつも先生や親が探し回ります。放課後になってもずっと隠れ続けたこともありました。
 3年生になると教室から出て行くことはなくなりましたが、それでも机の下に潜ったり、掃除道具入れの中に隠れたりしていました。それは人と関わることが恥ずかしく感じたり、出来ないことがあることを知られるのが嫌だったからでした。
 そんな小口さんが小学校4年生の時のことです。お母さんのおなかの中に、赤ちゃんがいることが分かりました。しかし、お母さんは高齢出産になるため、赤ちゃんを産むか産まないかを、教会の先生に相談していました。そんな中、小学4年生の小口さんがお母さんに、「神様に任せれば大丈夫だよ」と言ったのです。その言葉は、お母さんの不安を和らげました。そして妹が誕生しました。
 その妹が1歳になる頃のことです。お母さんが出掛けるので、お姉ちゃんと一緒に妹の子守りをすることになりました。ところが、妹が突然、けいれんを起こしたのです。お母さんはいない。おまけに妹の心臓は生まれつき穴が開いていました。小口さんは慌てました。まず妹の頭を冷やしました。お姉ちゃんがお母さんに電話をしている間、小口さんは、「妹を助けてください」と、神様に一生懸命祈りました。幸い大事に至らずに済みました。
 この出来事を通して、妹のお世話をすることの大切さを痛感し、より一層お母さんのお手伝いをするようになりました。この頃から、学校で隠れることが少なくなっていきます。
 小学校5年生の時、新たな出会いがありました。それは担任の先生でした。今までのように隠れると、その先生から、「それは駄目、もっと周りを見るように」と、初めて注意を受けたのです。初めは、「苦手な先生だな」と思ったのですが、あまりにも熱心に言われるので、一度言われるとおりやってみよう。やってみて、もし駄目なら、「やってみたけど駄目でした」と先生に言おうと思い、挑戦してみました。すると、だんだんと友達との会話が増えていき、今までのような恥ずかしさを感じなくなっていきました。それ以来、隠れることもなくなりました。
 中学では剣道部に入りました。しかし、一人の先輩から厳しく指導され、意見が合わず、「どうしてこんなことを言ってくるのだろう」と思っていたのですが、「いや待てよ。この人が言っていることをやってみよう。もしかしたら、自分のために言ってくれているのでは…」と、小学生の時の体験を思い出し、その意見を受け止めてみました。すると、先輩の言うとおり物事が進み、自分を強くしてくれるためだったのだと気付くことができたのです。
 小口さんは当時を振り返り、「逃げて隠れていた時は、自分のことしか見えていなかったように思います。妹ができたことと、小学校の担任の先生から、『周りを見るように、自分を抑えるように』と言われたことで、相手の気持ちを分かろうとするようになりました」と語っています。
 小口さんは、幼い頃から、家族で教会に参拝する車の中で、おじいさんから金光教のラジオドラマをよく聴かせてもらっていました。「物語の内容が理屈っぽくなく、大らかな神様の温かさを感じるお話ばかりだった」と言います。小口さんは金光教のラジオドラマが大好きで、セリフを全て覚えてしまうくらい何度も聴いていました。
 小口さんが、妹の誕生で、「神様にお任せすれば大丈夫」と言ったこと、先生や先輩と出会う中で、相手の意見を受け入れられたこと。それは、幼少の頃からラジオドラマや教会の先生を通して、金光教の信心に触れていたのが大きな要因でした。小口さんの心の中に、人を思いやる優しさや物事の見方、考え方が育てられたのでしょう。その中で、自分の意見を置いて、相手の意見を受け入れる素直な心が、今につながったのです。神様は、人との関わりが苦手な小口さんに、人と触れ合うことで世の中のお役に立ってもらいたいと願い、そういう人たちに出会わせてくださったのでしょう。
 今、小口さんは作業療法士として働いていますが、この仕事を選んだのは、おじいさんが脳梗塞(のうこうそく)を患ったことがきっかけでした。
 コミュニケーションを必要とする仕事に就いたのも、人のお役に立つことで小口さん自身も成長してほしいとの神様の願いなのかもしれません。
 小口さんは、患者さんのことを理解し、患者さんと仲良くなるためにも会話を大事にしています。また、患者さんの治療を始める前には、「どうぞ、この治療方法で助かっていきますように…」と神様にお願いしながら、今日も治療に励んでいます。

 


 

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