●神様カムバック!

金光教南牟婁教会
松田斎二郎


 「よおー、久しぶり!」
 街で同級生の一郎さんを見掛け、声を掛けましたが、彼の表情は暗く、人相が変わる程やつれていました。話を聞くと、親の跡を継いだ工務店の経営が悪化し、家族も色々と問題を抱え、自身も原因不明の感染症で入院するなど、次々と不運に見舞われたと言います。そして、「お前、神主をしているんなら、一度、お祓(はら)いをしてくれないか」と言うのです。私は、「金光教では神主とは言わないんだよ」と言い掛けましたが、「まあ、そんなことはどうでもいいか。とにかく、詳しく話を聞かせてもらおう」と思い直し、後日、一郎さんの工務店に伺いました。
 仕事場には、立派な神棚が設けられていて、驚いたことに、あちこちの神社のお札とともに、金光教で拝む目当てとする「天地書附(てんちかきつけ)」の額まで置かれていました。代々、家庭に複雑な事情が重なり、離婚、死別、養子縁組などを経て、今に至ったようでした。
 彼は、度重なる不幸に、「これは、何かの呪いか祟(たた)りだ」と日柄や方角を調べたり、占い師に運勢を見てもらったり、ついには霊能者とうわさされる人まで呼んだと言います。
 その霊能者の方は、立派な庭石を指して、「この石にはヘビの霊が憑(つ)いているから、祭った方がいい」と忠告したそうです。さらにその人は神棚を指差し、「ここには神様がいないから、いくら祈っても願いは届かない。これでは守ってもらえない」と指摘し、続けて、「神様はあなたに怒っている」と言ったので、彼は途方に暮れてしまったのでした。
 そこで私は、庭石の前に立って手を合わせてみたのですが、何も感じませんでした。
 ただ、「天地書附」が祭られた神棚に手を合わせた時には、ここを空っぽだと言われたことに悔しさが込み上げてきました。
 私は気持ちを鎮めるように、しばらく目を閉じて祈りました。すると、神様がいつもと変わらず私の願いにじっと耳を傾けてくださっているのを感じました。それなのに、空っぽだなんて…。その時、ハッと気付くことがありました。
 私は一郎さんに向き直り、こう話しました。
 「君は、ここでちゃんと拝んだことがあるのかい? 神様を祭るだけ祭っておいて、後のことを奥さんに押し付けていないか。だとすれば、こんなご無礼なことはない。それでは神様が逃げていってしまうよ」
 どうやら図星のようでした。彼は、頭をかきながら言いました。
 「やっぱりそれで、神様が怒ってるのか?」
 「いや、神様は怒るより、君がちゃんとおかげを受けてくれないのを嘆いておられると思うよ。怒っているのは、神様より君の方じゃないかな。きっと神様は、霊能者さんの言葉に、君の怒りや恨みをそのまま映し出して見せてくださったんだ」
 一郎さんの表情が変わりました。私は続けて、「この庭石にヘビの霊が憑(つ)いていると言うけど、石だけ祭ってもどうにもならないよ。この敷地の下には、他にもどんな霊がどれだけ埋もれているか分からないじゃないか。それなら、神様に、『その霊たちもみんなこの神棚に一緒に祭らせてください』とお願いして守ってもらった方が楽じゃないか。金光教の神様は、天地の親神様だ。この天地の神様に、土地も、霊たちも、家族も、会社も、丸ごと守ってもらうんだよ」。そう言うと、彼は、「うん、そうだな。そういうお祭りをしてもらえるとありがたい」とうなずいてくれました。
 教会に戻った私は、「あの空っぽだと言われた一郎さんの神棚に、どうぞお帰りくださいまして、不幸続きの家族をお守りくださいますように」と願いながら、心を込めてお祭りの準備をしました。
 一郎さんも、神棚を奇麗に掃除して、お祭りを仕える日まで、毎日神様に手を合わせていたようです。
 こうしてお祭りの当日を迎えました。神棚にはお米やお神酒などをお供えし、これを機に、家族みんなが神様とのご縁を結び直し、ここから助かりの道が付いていくよう、祈りを込めてお祭りを仕えました。
 翌日、一郎さん夫婦が教会にお参りしてきました。
 「昨日はありがとう。とてもいいお祭りだったよ。感動して、泣けて泣けてしようがなかった。まるでお腹に穴を開けてもらって、そこから毒が洗い流されていったような、とても晴れ晴れとした気分だよ」と話してくれました。彼の表情は、一日でここまで変わるのかと思うほど、穏やかになっていました。
 それから3カ月が過ぎた頃、一郎さんの様子をうかがいに工務店を訪れました。明るい表情で出迎えてくれた彼は、少しバツが悪そうに、「君を疑ったわけじゃないけど、実はあの後、また霊能者を呼んじゃったんだ。でも今度は、『神様が戻って来られた。この家の運気もずっと良くなった』ってさ」と言ったのです。
 私は一瞬、複雑な気持ちになりましたが、「いや、ありがたいなあ。神様は霊能者さんまで使って、一郎さんの信心を励まされたのだ」と気付き、神様の深遠なお働きに強く胸を打たれたのでした。
 一郎さんはその後、夫婦で教会にお参りするようになり、生活の一つ一つを教えに基づいて改めていっています。いつしか家庭の中も穏やかになり、工務店の経営も順調です。難しいと思われていた問題にも立ち行く道がつき、運命が好転したといえるようなおかげを頂いています。

 


 

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