ラジオドラマ『ミカンちゃんのラジオ人生相談』
●第8回「僕のお父さんとお母さん」

金光教放送センター


登場人物
 青柳 文治 (88歳) 静岡県のミカン農家の隠居 愛称ミカンちゃん
 原田 ケイコ   (33歳) とあるラジオ局のアナウンサー
 大山啓介  (13歳)  中学1年生

(電話ベル音)

ケイコ   (受話器を取り)はい、「ミカンちゃんの人生相談」です。
男の子   (泣くのを必死にこらえている様子)ウ、ウ、ウウウ…。
ケイコ   ど、どうなさったんですか? どのようなことでもご相談に乗ります。
男の子   わっ。わ、わわぁーっ!(せきを切ったように激しく泣く)

ケイコ(ナレーション)この日泣きながら電話を掛けてきたのは中学校1年生の男の子で、その名前を大山啓介君といいます。夕べは心配で、一晩中眠ることができなかったと―。

啓 介   (必死で涙をのみ込んでから)僕のおじいちゃんが、去年病気で死んじゃったんです。僕にはたった一人のおじいちゃんだったのに…。
文 治   ふむ、ふむ。いいおじいちゃんだったんだろうなぁ。
啓 介   おじいちゃんが生きている間は僕のお母さん、「お父さんと離婚したい!」なんて絶対に言い出さなかった…。
文 治   …離婚? 離婚じゃと?
啓 介   誰も反対しないんだ。
文 治   誰も?
啓 介   「別れましょう」って言うお母さんに、お父さんは黙ってうなずいたんだ。おばあちゃんも黙ったままだった…。僕は、隣の部屋で布団をかぶって聞いていた…。この間の夜のことなんだ。
文 治   そりゃ大変だったなあ…。
啓 介   僕のお父さん、いつもお母さんをガミガミ叱ってばかりいる。特にお酒を飲んだ時なんか…。お母さんは小さくなって、ただハイハイって…。このごろでは暴力も振るうようになって…。僕は、そんなお母さんが可哀相で。それで、この間なんてお母さんを助けようとしたら、僕がお父さんから殴られちゃった…。
文 治   そ、そんなにヒドいお父さんなのか…。
啓 介   でも、僕にはたった一人のお父さんだから…。
文 治   (うなずいて)全くその通りじゃ。この世にたった一人のお父さん、お母さんなんじゃからなあ…。
啓 介   お父さんは、僕がまだ小さな時にはよくキャッチボールをして遊んでくれた。肩車もしてくれた。釣りにもよく連れて行ってくれた! 本当は、とってもいいお父さんなんだ!
文 治   …。
啓 介   これからはもうそんなお父さんと会えなくなってしまう。イ、イヤだ! イヤだ! イヤだー!
文 治   (首を振って)そんなことは決してない!

文 治   わしはな、長い間ミカンを作ってきたのじゃが、このミカンは、あのなだらかな丘の木から―。このミカンは海に一番近いあの急な坂に生えている木からと、みんな分かるんじゃよ。親と子の間柄というものは、切ろうとしてそう簡単に切れるものではない。ご両親が仲むつまじゅう暮らしてくれるのが何よりじゃが、長い間イザコザ続きじゃったんだから、夫婦別れをするのもまた一つの道じゃろうとわしは思う。だがな、その夫婦の問題に、啓介君が首を突っこんで苦しむことはない!
啓 介   えっ。で、でも…。
文 治   ここで問題になるのは啓介、君の心の持ちようなんじゃ。
啓 介   …僕の心?
文 治   ミカンも人もみんな同じじゃ! 嵐に遭って、苦しむことが度々あるんじゃからなあ。じゃが、ミカンにも色々あってな、雨風に耐え切れずに親木から引きちぎられ段々畑をコロコロ転がり海の底へ沈んでしまう実もあれば、また激しい嵐に遭っても雨風をこらえ、秋にはつやつやとした立派なミカンとなって出荷されるものもあるのじゃ。水も肥料も同じように与えてあるのになあ。だが、人間は、心の持ちよう一つでどんな嵐からも身を守ることができる!
啓 介   (目を輝かす)えっ! どうすれば! どうすればいいの!?
文 治   心の持ちよう一つじゃと言うたじゃろう。啓介、君の中にはいつもお父さんがいる。お母さんもいる。そしておばあさんも、亡くなったおじいさんもいつも一緒にいるのじゃ。そして、啓介のことを守ってくれている。別々に暮らしていても少しも変わりはないのだ! ただ…。
啓 介   …ただ?
文 治   別れ別れになって自分は不幸だと啓介が悲しみのふちに沈んでしまっては、守りたくても守りにくいんじゃよ。
啓 介   …僕を…守り…にくい?
文 治   そうじゃ。だから肝心なことは…。
啓 介   …肝心なことは?
文 治   離れていても、みんなが啓介のことを大事に思っている。心はつながっている。このことを、決して決して忘れてはならんのじゃ。
啓 介   大事に思っている。心はつながっている。そうなんだね!
文 治   その通り。その通りなんじゃ! お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんなが啓介のことを可愛がってくれるんじゃ! 今まで通りに。そして、これからも先もずっと! ずっと! だから元気を出して、明るく生きろ!

啓 介   分かった。ありがとう! 僕は今、嵐の中。でも大丈夫! 明るい心を持つんだ。よし! 元気出た! 本当にありがとう! ミカンちゃん!
文 治   おお!
ケイコ   ああ、良かったー!(つぶやく)…「明るい心」か―。私も反省! 反省!

 


 

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