シリーズ「こころの散歩道」第2回
●不思議な力の源

金光教放送センター


 えっちゃんは、小学校1年生の女の子。
 えっちゃんには、毎日、楽しみにしていることがありました。
 「ねぇねぇ、お母さん。今日は一体どんなお話をしてくれるの?」
 「そうねぇ。えっちゃんが好きな、犬が出てくるお話をしようか。むか〜しむかし、あるところに1匹の可愛らしい犬がおりました…」
 こうやって、夜になるとえっちゃんは、お母さんと一緒にお布団に入って、お話をしてもらいながら眠ります。犬が出てきたかと思えば、おじいさんやおばあさんが出てきたり、途中までは桃太郎のお話だと思っていたら、終わりは全く違うお話になっていたり。お話はどれも、お母さんのオリジナル。毎回、どんなお話になるのか、えっちゃんには想像も付きません。けれども、結局いつもハッピーエンドになるお話が、えっちゃんは大好きで、1日の終わりの楽しみだったのです。

 だけど、たまにちょっと困ってしまう時もありました。
 それは、お母さんの方がえっちゃんよりも先に眠ってしまった時です。お母さんの話し方がどんどんとゆっくりになっていって、すこ〜しずつ途切れ途切れになっていって、気が付けば、スースーと寝息を立てて、お母さんは眠ってしまっているのです。
 えっちゃんは続きが気になって、お母さんを起こそうするのですが、疲れているからか、一向に起きてはくれません。えっちゃんは、「もうっ! お母さんってば! 明日、続きから話してよ!」と頬を膨らませながらも諦めるしかないのでした。
 でも、そうやって途中で寝てしまっても、お母さんの片手はえっちゃんの頭の上。
 お話をしてくれながら、頭を優しくなでてくれていたお母さんの手がとても温かくて、えっちゃんは幸せな気持ちで眠るのでした。

 えっちゃんは大学を卒業し、地元の会社に就職。車で通うようになりました。車は家から歩いて30秒の所にある駐車場に停めています。
 「お父さん、今日はもう見送りしなくても大丈夫だよ! 朝、いつも忙しいでしょ?」
 「いやいや、父さんはこうやって、えっちゃんの元気な顔を見て送り出すのが楽しみなんだよ。さ、今日も元気にいってらっしゃい!」
 「なんか照れくさいなぁ。まぁいいや、いってきまーす!」
 お母さんの夜のお話はもうなくなったけれど、今度は毎朝、お父さんが駐車場まで付いてきてくれて、「いってらっしゃい」と、笑顔で手を振って送り出してくれることが、日課になっています。
 ある時、仕事がうまくいかず、出勤するのがとても憂鬱(ゆううつ)な日がありました。朝ご飯を食べていても、支度をしていても、えっちゃんはずっとしかめっ面のまま。けれど、そんな時でも相変わらず、お父さんはいつもの笑顔で、「いってらっしゃい」と手を振ってくれます。えっちゃんもつい、いつもの条件反射で、「いってきます!」と笑顔で手を振り返していました。すると、その瞬間に今までの憂鬱な気持ちはどこかへ飛んでいってしまったのです。
 「あれ? さっきまであんなにグダグダと悩んでたのは何だったんだろう…」
 どうやら、お父さんの笑顔と「いってらっしゃい」の言葉には、とても不思議な力があるようです。

 さらに仕事が休みのある日、えっちゃんはお母さんとこんな話をしていました。
 「お母さん、私ね、小さいころ、お父さんとお母さんってすごく仲良しだと思っていたし、自分の家に問題なんて全く無いって思ってた。だけど、一度だけ、家計が厳しいって2人が言い合ってるのを盗み聞きしたことがあってね」
 「ああ、あの時のこと? えっちゃん、半泣きでいきなり台所に入ってきたよね。『この50円、私の全財産! これだけしか無いけど家のために使って!』って言いながら。あれはびっくりしたよ」
 「お母さん、覚えてくれてたんだね。あの時はお金で困ってるなんて話も、2人が言い合ってることも、一度も聞いたことがなかったから、ものすごくショックだったんだよ! でも、いざ自分が大人になってみると、お父さんもお母さんも普通によくけんかもしてるし、家計の話もしてるよね。子どものころ、全然気付かなかったのが不思議だよ」
 「そらぁ、えっちゃんが気付かなくて当たり前。『子どもの前では絶対にけんかをしない、お金の話はしない』ってお父さんと約束してたんだから。」
 「ええ! そんな約束してたの!? 初めて知ったよ!」
 子どものころから家のことは何も心配せず、安心して育ってきたえっちゃん。親がそのためにとても努力をしてくれていたことに、この時初めて気が付いたのでした。
 思い返してみれば、夜のお話にも、毎朝の見送りにも、そこには、子どものことを大切に思う親心がたっぷりと含まれています。
 「子どもを喜ばせてやりたい」「安心して毎日を過ごしてもらいたい」、そんな親心が、自分を元気にしてくれる不思議な力の源だったのだと、えっちゃんは思うのでした。

 


 

《TOPへ》