●心の鏡

金光教佐古教会
木村道江


 「まーた、こんなに散らかして! ちょっとは自分で片付けなさい!」と、母の声。私は子どものころから、整理整頓が大の苦手。「片付けないといけない」と頭の中では思っていても、面倒くさいが先に立ち、出したら出しっぱなし。使ったら使いっぱなしで、母親からよく叱られていました。
 まだ私が小学校の高学年だったころの話です。ある日、授業が終わって学校から帰ってくると、部屋の中がいつになく奇麗になっていることがありました。散らばっていた本たちは本棚に奇麗に整えられ、出しっぱなしになっていたゲーム機はきちんと収納箱に片付けられているのです。
 「そのうち自分でするから!」という、いつになっても実行されない私の言葉にあきれた母親が、とうとう、私のいない間に、部屋を片付けてくれていたのです。
 「うわ〜、母さんも忙しいのに…ごめん、ありがとう!」と思いながら、奇麗になった自分の部屋で、優雅にくつろいでいられたのもつかの間。しばらくすると。「あれ? 置いてあったはずのプリントが見当たらない。明日学校に提出なのに。どうしよう!」と部屋の中をウロウロ ウロウロ、探し始めることになったのです。
 自分なりにどこを探しても、何度探しても、全く見つかる気配がありません。次第にイライラと怒りが募っていき、探す手つきもどんどんと雑になっていきます。そしてついには、「ちょっと母さん! プリントどこにおいたん!? 明日提出なのに見付からんでえ! 勝手に人の部屋の物、触らんとってよ!」と、親に向かって怒り心頭、大爆発です。つい先ほどまで、「ごめんよ、ありがとう」と思っていた反省や感謝の気持ちも忘れて、ただひたすら、自分の怒りをぶつけます。
 一通り責め立てて、気持ちが落ち着いたころになると、「あ、そういえば自分でここに片付けてたんだっけ」と、ふと思い出し、探し物は出て来ます。
 こうなってしまうと、「あ〜。あそこまでひどいことを言わなければよかった。お母さんも良かれと思って片付けてくれたのに」と後悔するやら、気まずいやら。けれども、もう、後の祭りです。
 このように、私は度々、腹が立ってカッとなると、周りの状況が見えなくなって、自分のことを棚に上げては、相手を責めてしまうことがありました。
 何度もこれではダメだと思って反省しても、どうしてもやめられないのです。
 そんな私は、金光教の教会に生まれ育ちました。大学を卒業し、地元の会社に勤めるようになったころ、私は毎日、夜、神様に向かってお祈りをするようになっていました。その日あったことや、家族のこと、自分のことなど、何でも神様にお願いします。そうすると、大体心が静かになって、落ち着いた気持ちになれるのです。
 ところがある日、友人のちょっとした態度がどうしても許せず、教会でお祈りをしている時でも、ずっとイライラが収まらない、ということがありました。いくら心を鎮めようとしても、頭の中は友人のことでいっぱい、今にも爆発してしまいそうになります。ただひたすらじっと目をつぶり、「神様、イライラが止まりません。どうにかして下さい」と何度も何度も繰り返しお願いをしていました。
 それからしばらくして、ふっと目を開けた瞬間、目の前に、まるで鬼のように恐ろしい、真っ赤に怒った顔がパッと見えた気がしたのです。本当に一瞬のことでした。
 私は、「今の顔は、私の心の中の顔に違いない!」と確信し、「今まで、私はこんなに怖い鬼のような心になっていたのか」と、自分が恐ろしくなって、友達への怒りもどこかへ飛んで行ってしまったのでした。
 金光教の教祖様は、「心の中には鏡がある。その鏡は腹が立つと曇ってしまうぞ」ということを言われています。曇っている鏡には、腹を立てた自分の姿なんて、映るはずがありません。しかし、「神様、どうにかして下さい!」と心の底から願った私に、神様は一瞬だけ鏡の曇りを取り払って、その恐ろしい自分の心の姿を、特別に見せてくれたのだと思いました。
 それ以降も、もちろん腹が立つことは何度もあります。しかし、カッと爆発しそうになる時、あの、鬼のような顔を思い出しては、「いけない、いけない、また鬼の心になっているぞ」と自分に言い聞かせ、心を落ち着かせるようにしています。そうすると、相手を責める前に、自分の至らないところに気付いたり、相手の言い分を違う視点から受け取ることが出来るようになったりと、少しずつ、昔と比べて怒りに任せてしまうことが少なくなってきたような気がします。
 毎朝、顔を洗う時や化粧をする時、鏡をのぞくと、当たり前ですが、そこには自分の顔が映っています。たまに、自分でもびっくりするくらい、疲れた顔が映るのですが、そんな時、私は鏡を見ながらニコッと笑い、笑顔を作ります。そうすると、なんだか少し、心が元気になる気がするのです。心の中の鏡に映る自分の姿。どうか、鬼なんかにならず、いつもきらきらと輝いて笑っていて欲しいなぁと思います。

 


 

《TOPへ》