紀要『金光教学』

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紀要『金光教学』第63号刊行



 金光教教学研究所では毎年、研究の成果を紀要『金光教学』に発表してきている。本年度刊行の第63号には、論文3編、研究ノート1編が掲載されている。各概要は以下のとおり。

高橋昌之論文


 「原子爆弾がもたらす惨禍の諸相とその意味 ―神への問いと平和の行方―」
  

 この論文は、太平洋戦争末期に、広島と長崎に投下された原子爆弾で死傷した人やその子孫等における経験の語りに注目し、「人間」の捉え返しや、神への問いかけが、今日を生きる私たちに対して、信仰と平和の関わりをどのように考えさせることになるのかを論じている。
 具体的には、原子爆弾による金光教の教会や布教所の被害状況を確認した上で、当事者の手記や回顧録、さらに慰霊祭や平和集会に見られる被爆経験の語られ難さの様相を、時代・社会状況との関わりから考察している。このことを通じて、生者と死者の共働によって日々求められ続けていく「平和」が、どのように戦争へと突き進む世界の現実を捉え返させるのか、それを信仰に向けて突きつける問いとして論究している。


山田光徳論文


 「明治中期から大正期の社会事業の一位相 ―実践の他律性に焦点を当てて―」
  

 この論文は、明治中期から大正期の金光教信奉者による社会事業の他律的な在り方に注目し、あらかじめ実践者が信仰的主体として措定されているような、従来の社会事業への見方を検討している。
 具体的には、濃尾震災の慰問や女囚携帯乳児保護事業などの例を挙げ、苦難を抱える人々に遭遇した信仰者が、考える前に動きだし、その実践を通じて、自分たちの行動の意味を事後的に再把握するありようや、その後の事業の継続性などを歴史実証的に考察している。その上で、こうした目の前の「人」を手放さない実践により、救済とは何かを求めさせられてきた彼らの歩みは、今日想定される「現代社会」に向けてどう見据えられているのかと、問いかけるものとなっている。


塩飽望論文


 「「家庭」に向けられた信心の言葉

       ―明治期の教内言説に見られる「男‐女」の規範化と助かり―」
  

 この論文は、「家庭」をめぐる明治期の信仰言説に浮かぶ問題について、「家庭」の担い手とされてきた女性自身の経験や、「家庭」を論じる当人における信仰経歴・家族関係などに注目しつつ、論究している。
 具体的には、「家庭」に向けられた信心の言葉が規範化される様相を確認した上で、その規範化に「沿おうとして、沿いきれない」という、葛藤を手放さず、助かりを求める女性らのありようを浮かばせている。このことを通じて、ジェンダーやセクシャリティをはじめ、多様な価値観が溢れかえる現代において、相互の関わりの実感から生まれる言葉が、自他共に生きる道をつないでいく可能性を論じている。


【研究ノート】須嵜真治


 「神道金光教会支所について
        ―中島支所(岡山市西中島町)の「祈念簿」を手がかりに―」
  

 この研究ノートは、明治20年代の「神道金光教会中島支所」で記された「祈念簿」を手がかりに、神道金光教会条規をはじめとする諸制度に留まらない、支所の実態的様相に迫っている。
 具体的には、先行成果における支所の位置づけを確認しながら、当該地域における都市化の様相や、遊郭、貧民街といった地域的特徴を踏まえつつ、多様な社会的階層におよぶ人びとの受け入れを可能とする場としての支所の一面を明らかにしている。

  • 定価550円(税込み)。10月1日から金光教徒社で販売開始。


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