VOL.1



金子みすず
いのちのうた・1
上山 大峻・外松 太恵子 著


JULA出版局
あなたのこころに出会う詩(うた)

なにげなく勝手口を開けると、中に蛇がいた。逃げ場を失った蛇は、あちこちに勢いよく動き回る。飛び上がって驚くと共に、次の詩を思い出した。
      大 漁
    朝焼小焼だ 大漁だ  大羽鰮の大漁だ。
    はまは祭りのようだけど  海のなかでは何万の
    鰮のとむらいするだろう。
これは金子みすゞの詩だ。
以前、この詩に衝撃を受けていたから、人間を見た蛇の方がもっと驚いたはずと思えた。  
      蓮と鶏     
    泥のなかから   蓮が咲く。
    それをするのは   蓮じゃない。
    卵のなかから  鶏が出る。
    それをするのは   鶏じゃない。
    それにわたしは気がついた。
    それもわたしのせいじゃない。
みすゞの詩は、いまだ気が付いていないあなたの心を見つけることができると思う。    (K・K)

パンをふんだ娘
(「アンデルセン童話集1」より)
ハンス・クリスチャン・アンデルセン 著
大畑 末吉 訳

岩波書店
お話は時空をこえて・・・

小学校2年生の時、教育番組で『パンをふんだ娘』という人形劇を見た。性格がとっても悪い、インゲルという娘のお話だ。 自分の服を汚したくないばかりに、パンをふんで水たまりを渡ろうとした。そしてそのまま地獄に落ちた。今でも、ふとした時に思い出すほど心に残っている。

それから、 年が経ったある日、『旅の絵本W』を読んで『パンをふんだ娘』は、アンデルセン童話であること、そして地獄に落ちた後の続きのお話があるという、2つのことがわかった。私は、何か昔の友達にでも会えた様に、とっても嬉しくなり早速『アンデルセン童話集1』を読んだ。

地獄に落ちたインゲルは、来る日も、来る日も苦しみつづけた。地上の人々がインゲルのことを話す声さえも、彼女を苦しめた。しかし、ただ一人、インゲルのことを神様に祈った人がいた。インゲルはその人の祈りによって小鳥となり、地上に出ることが出来たが、苦しみから本当に、解き放されたのではなかったのだ。続きは、ぜひ読んでほしい。

38才の私は、子供のときに感じることが出来なかった感動で満たされた。同じお話なのに、読んだ年齢によって、感じ方が違ってくるのだ。本を読むっておもしろいな〜と思う。これから、何年か経って、いつかこの物語と出会った時、私は、どんなことを感じることができるのだろう。(K・H)

「ラッシュライフ」
伊坂 幸太郎 著

新潮社 新潮文庫
壮大なだまし絵のごとき、群像劇の逸品!

その巧みな構成力に、「あっ」と驚くことまちがいなし。
並走する四つの物語。交差する十人以上の人生。本作は傑出した群像劇である。

泥棒家業の黒澤。新興宗教の教祖に憧れる河原崎と幹部の塚本。殺人の計画を企む、女性精神科医、京子とプロサッカー選手、青山。四十社連続不採用中の失業者、豊田。それと、話の合間に、画商、戸田と女性画家、志奈子の物語が盛り込まれ、作品は五つの視点で進められる。

時間軸をずらすことにより、一見ばらばらに見えていた一つ一つの物語が、話が終盤に近づくにつれ、ジグソーパズルのピースが埋まっていくように、全体像が明らかになり、一つの物語として鮮やかに構築されていく。
本作の著者は以前、「小説でしか味わえない物語、文章でしか表現できない映像よりも映像らしい世界を創っていきたい。」と語っていた。

巧みに配置された物語。魅力ある登場人物。全てを結びつける、ちりばめられた言葉の数々。浮かび上がるのは、エッシャーの描く、壮大な騙し絵のごとき世界。その才気溢れる物語をとくとお楽しみあれ。(Y・T)

「掌の小説」
川端 康成 著

新潮社 新潮文庫
川端康成は、やはりスゴイぞ!

川端康成といえば、「雪国」「伊豆の踊子」「古都」など、実際には読んでいなくても、思い浮かぶ作品の多い、日本が世界に誇る作家だ。「掌の小説」は、そんなビッグネームの作品である。実は、この本に出会うまで、僕にとっての川端康成は、そんなにスゴイ作家ではなかった。波長が合っていなかったというのが、正直な感覚か。
出張の折、知り合いが話していたのを思い出し、本屋で買って帰りの電車で読んだのが最初であった。

この小説は、いわゆる「掌編」あるいは「ショートショート」と呼ばれる、一話が四、五頁ほどの短編の集まりである。「チョッとした合間に軽く読めるだろう」そう考えたのは甘かった。一話読むごとに、想像力が刺激され、読み返しては思考し、余韻をなぜか楽しみたくなる。したがって、二時間の内に読めたのは、ほんのわずかだった。
それまで、何となく長編は重厚で、短編は軽いというイメージを持っていたが、見事に覆されてしまった。たぶん川端康成は、その気になれば、この中からいくつでも長編小説に仕立てるのは造作もなかったのではないか。そんな気さえする、すごく贅沢な百二十二編である。

お薦めは、「雨傘」「百合」・・・うーんありすぎて言えない。時代劇からSF風まで、多岐にわたるシチュエーションの物語の中から自らに響くものを探してください。  (O・N)